2017年8月8日火曜日

西洋美術史実地研修1 H29年度 第4回研修

第4回目の研修では、午前中は上野の国立西洋美術館で「アルチンボルド展」に行きました。

日本ではあまり知られていない画家を扱った展覧会なので、事前レポート課題では「ジュゼッペ・アルチンボルド」について調べてきて、鑑賞前に勉強です。



16世紀後半、神聖ローマ帝国の皇帝たちに仕え、果物や花々、あるいは魚類などを組み合わせた合成肖像画(本展では「寄せ絵」と呼ばれていました)で知られるイタリア人画家ジュゼッペ・アルチンボルドは、20世紀にシュールレアリストたちに注目されることで知られるようになった画家です。

そのため、1980年代にこの画家についての展覧会が初めて行われた際も、20世紀の前衛画家たちの作品と並べられ、歴史的な位置づけは詳細にはなされませんでした。

しかし、今回の展覧会では近年の欧米での研究成果を踏まえ、アルチンボルドが彼が生まれたイタリアのミラノ、そして彼が主に活動したウィーンの同時代の文化の中に置いて、その画業の意義を見直すというかたちがとられていました。

日本で初めての「アルチンボルド展」ということで、アルチンボルド作品や彼に影響を与えた作品、彼から影響を受けた作品、同時代の博物学資料を含む多種多様な出展作が見られました。

 その多くがウィーン美術史美術館からの出展でしたので、事前レポート課題では、欧州有数の美術館である「ウィーン美術史美術館について」も調べてもらいました。
 この美術館のコレクションの核になるのは、神聖ローマ帝国皇帝の一族ハプスブルク家のコレクションです。そこには絵画や彫刻だけでなく、工芸品など多種多様な作品が収められています。ことにアルチンボルドが活躍した時代は、いわゆる大航海時代でもあり、ヨーロッパから見て遠隔の地に由来するさまざまな動植物や鉱物などへの博物学的な関心が高まります。出展されていた工芸品類はそうした関心から珍しい動物を象ったものなどが見られました。アルチンボルドの作品の土壌が出展作を通じて示されていました。



午後は 六本木の国立新美術館で、一転、20世紀を代表するスイス出身の彫刻家アルベルト・ジャコメッティの展覧会を見に行きました。


独特の細長い人体のブロンズ像で知られている作家です。


今回の展覧会では、ジャコメッティのシュールレアリスム期の作品から晩年の作品が展示されており、ジャコメッティの生涯と作品を辿り、彼の造形や「見ること」への拘りを追うというかたちで構成されていました。




事前レポートでは「アルベルト・ジャコメッティ」についてとともに、「ブロンズ彫刻の鋳造法」について調べてもらいました。


石材や木を直接彫るのとは異なり、金属製の彫刻というのは、鋳造という技法を使います。
ジャコメッティのブロンズ像は、彫刻の技法をあらかじめ知って見ることで、その造形への拘りも見てとれます。
(会場には作品制作中のジャコメッティの写真が随所に展示され、また生前の作家を映したビデオも上映されていました)


 ジャコメッティは初期には掌にのるほどの極小の彫刻も作っており、それらの作品とともに見どころのひとつだったのが、アメリカの銀行のために制作された巨大なブロンズ像でした。

 また、もっぱら彫刻家として有名なジャコメッティですが、絵画やリトグラフの作品も残しており、それらの作品も、彫刻とは一味違うアプローチがなされており興味深いものでした。非常に幅広くジャコメッティという芸術家を理解することができる展覧会でした。

 今年最後の研修で訪れた二つの展覧会は、かたや16世紀の画家、かたや20世紀の彫刻家を扱っていました。一見して共通点はないようですが、実はどちらの芸術家も「人間の姿」を独特の方法で表しています。西洋美術においては、「人間を表す」ことが長らく重視されてきたことを考えると、「西洋美術史実地研修1」の最後の授業にふさわしい2人の芸術家作品を見ることができたのではないでしょうか。